庭でアシナガバチが巣をかけ始めていることに気づいた4月。
はじめは刺される恐怖や不安もあったのですが、共に暮らそうと覚悟を決めて観察し始めると、色々な発見があり、面白くて目が離せなくなってきました。
「毎日、女王蜂に声をかけ続けたらどうなるのだろう?」
4月にそう思いついてから、毎日話しかけてみたのです。
なんちゅうアホなことを。
私もそう思います。
でもまあ、そんな変わり者がいたっていいじゃないですか。
地球の生物だってこんなに多様なんですからね。
通づるものが何もないなら、面白くないのでそんなことはそのうちやめてしまうのですが、最初に彼女を発見した時に比べて、毎日顔を合わせているうちに羽をパッと広げる威嚇行動を見せなくなったのです。
ピンとたてて警戒していた触覚も、話しかけると時折片方を下げたり、両方を下げたりします。
それが何らかのサインなのかどうかはわかりませんが、顔見知り程度には思われている気がしてきました。
庭には3ヶ所に巣がかけられており、最も観察がしやすい低い位置、縁台の隅に巣をかけている女王蜂を「はに子」と名づけました。私が毎日話しかけている女王蜂です。
他に、軒下の高い位置に巣をかまえる「はに美女王」、ジンチョウゲの枝に巣をかまえる「かおり女王」がいます。
(他にも車庫組、ベランダ組、畑組の女王たちがいますが、ややこしくなるので今回は省略します。)
驚いたのは女王蜂たちの子育て奮闘ぶりです。
これから、私が見つめた彼女たちの奮闘ぶりを紹介していこうと思います。
(昆虫が苦手な方は見ないようにして下さいね〜)
出会い たった1匹からのはじまり
4月、桜の咲く頃に巣をかけはじめているのを発見した時、すごい目ヂカラで私をにらみつけてきた女王蜂がセグロアシナガバチの「はに子」です。
はに子は巣の材料をせっせと運んできては大きなアゴを器用に使って塗りつけ、少しづつ壁を広げて巣を形作っていました。
巣の材料は、木材などの植物の繊維を噛んで唾液と混ぜて作ったパルプに似たドロドロしたものです。
私が発見した時にはすでに巣の中に数個の卵が産みつけられていました。
たった1匹で巣づくりをし、卵を産み、懸命にそれらを守ろうとする母蜂の気迫に、私は圧倒されてしまったのです。
5月 幼虫たちの世話と巣づくり
アシナガバチの卵が孵化するまでの日数は気温によって変化し、
18℃では37〜39日
20℃では18〜20日かかるとされています。
卵から孵化したばかりの幼虫を1令幼虫、脱皮をするごとに2令幼虫、3令幼虫と成長し、5令幼虫の後、さなぎになります。
5月の半ば、はに子の巣でも幼虫たちが成長していました。
巣の中央のあたりの幼虫が大きく成長しています。
母蜂は、早く働き蜂に羽化してもらいたいので、はじめは巣の中央付近にいる幼虫を集中的に育てるのです。
左下の巣室に小さな水滴のようなものがあるのが見えるでしょうか。
これはおそらく、幼虫のためか自分のためかわかりませんが、いざという時のために母蜂が貯蔵している蜜だと思われます。
巣穴はなぜきれいな六角形なのだろう??
ここで疑問がわいてきました。
女王蜂はなぜあんなにも美しい六角形の巣穴を形づくることができるのでしょうか?
調べてみてわかったことは、三角形や四角形の巣穴では幼虫が苦しいし、円形では穴と穴の間に隙間ができてしまいます。六角形なら壁どうしを利用して巣を大きくしていけるので効率がいいということでした。
しかも正六角形は最もつぶれにくく、頑丈なのだとか。
そして、母蜂は自分の触覚をものさしにして最初の六角形の一辺の長さを決めるのだそうです。
触覚をものさしに…?
なんてワイルドな!
それであれほどまでに正確な六角形を作り上げるとは、母蜂はガウディも真っ青の凄腕建築家なのです。
セグロアシナガバチは五千万年という長い生活史を持つ生き物だそうですが、これが途方もない長い年月をかけてそのDNAに刻まれ、命と共につないできた叡智なのかと思うと驚嘆します。
母蜂は大忙し!
はに子を観察していると、母蜂のやっていることの多さに驚かされます。
巣づくり、産卵、狩り、幼虫の世話、巣のメンテナンス(雨水を外に出すなど)
巣に近づくアリを撃退し、貯蔵用の蜜を集め、また巣を増築して産卵…。
たった1匹で目まぐるしく働くのです。
母蜂は毎日、巣穴の一つ一つに顔を突っ込んで、幼虫の世話をしています。
中央付近に白く膜がはったようになっている巣室があります。
どうやら幼虫がさなぎになったようです。
命がけの狩り
食べ盛りの幼虫たちのため、母蜂は青虫や蛾の幼虫などを狩りに出かけます。
青虫を見つけると襲いかかり、大アゴで引き裂いて肉団子にして巣に持ち帰ります。
それをしばらく噛み砕き、柔らかくしてから幼虫たちに食べさせるのです。
狩りに出かけたまま、戻ってこない母蜂もいます。
鳥や他の虫に襲われるなどしてどこかで命を落としたのでしょう。
我が家のアシナガバチの巣は合計10ヶ所ありますが、現在そのうち2ヶ所の巣が母蜂不在のまま幼虫たちが死に絶えていました。
自らの命をかけて、幼虫たちのために狩りに出かける女王蜂の姿は精悍で、残酷さというより「生きる」ということを強く感じさせます。
幼虫が出すスタミナドリンク
毎日忙しく働く母蜂はなぜあんなに動き回れるのでしょうか。
その元気のヒミツが、幼虫たちの吐き出す液体にありました。
母蜂が幼虫にえさを与えた時や、触覚で幼虫の頭をトントンとたたいたりすると、幼虫は口から液体を吐き出します。
それを母蜂が舐めとるのです。
この液体には成虫にとって必要な栄養が含まれていて、その養分の中のアミノ酸に脂肪をエネルギーに変える働きがあるということが研究によりわかってきたのだそうです。
母蜂は幼虫たちが出すスタミナドリンクのおかげで頑張れるんですね。
天敵スズメバチ登場!
アシナガバチの天敵はアリやクモやカマキリ、寄生蜂など色々いますが、なんといっても最大の敵はスズメバチでしょう。
ほとんどの種類のスズメバチがアシナガバチの巣を襲います。
中でもヒメスズメバチはアシナガバチの巣を専門に狙う天敵。
見つかったら最後、巣は全滅させられてしまいます。
はに子たちの庭にも、ついにスズメバチが登場しました。
「どうしよう!?見つかってしまう!!!」
そう思ったその時、スズメバチは軒下のはに美女王の巣を狙ったはずが、なんと、窓ガラスと網戸の間に迷いこんでしまったのです。
右往左往して出口を探すスズメバチ。
「え???」
私は拍子抜けしてしまいました。
でもまあ、そのうち出ていくだろう。
そう思ったのですが迷いこんだまま、右往左往しっぱなしで5時間あまり。
狭い隙間をヨタヨタと彷徨い歩いて、時々羽ばたいては窓枠にバチンとぶつかり下に落っこちる。
これを延々と繰り返すばかりです。
ヨタヨタ…ブーン…バチン…ヨタヨタ….。
右側から入りこんだので右に進み続ければ出られるのに、スズメバチの習性なんでしょうか?右に行きかけても途中で左に旋回してしまうせいで出られないのです。
「案外マヌケやなあ….。」
日も暮れかけ、掃き出し窓を開けないと私も庭に出られないので、仕方なくこのスズメバチを出口に誘導してあげることにしました。
無敵に思えるスズメバチとて、狩りは命がけ。
生きようとしているだけなのですから、それを裁ける者などいません。
うちわで風を送り、右へ右へと追いたてて、スズメバチはやっと解放されました。
大ピンチだったはずが、意図せず天敵の方がひどい目に遭ったのです。
多分もうあのスズメバチはここへは来ないだろうなあ。
他のスズメバチは来るかもしれないけど…。
なにはともあれ、スズメバチのちょっと間抜けな一面のおかげで我が家の庭組のアシナガバチたちは難を逃れたのでした。
暑い!!
初夏を迎え汗ばむ陽気となった日、気温は30度を越えました。
はに子の巣は南側で、長い間直射日光が当たります。
その上、家の外壁のすぐ側にあるので熱せられた外壁からの熱ですごく暑いようです。
母蜂は巣の上で羽をふるわせて、風を送って冷やしていました。
暑い中、大変そうだなあ。
私は簡易的な日除けを作ってやりました。
6月でこれなら、真夏になったらどうなるのでしょう。
と思ったら、寒い!!
暑い日だったと思ったら、翌日雨が降り始めました。
気温も20度を下回り、肌寒さを感じます。
今度は巣が雨水でびしょ濡れになってしまいます。
母蜂たちは巣の上でじっとして、雨から巣を守っていました。
はに子とはに美は濡れずにいましたが、ジンチョウゲの枝に巣をかけているかおりちゃんはずぶ濡れです。
傘をさして見にいくと、枝の隙間からカオリ母さんが巣に口をつけて水を必死に吸い取っているのが見えました。
雨は明日も降り続くようなので、このままではカオリ母さんの身がもちません。
巣の中の卵や幼虫たちも溺れてしまうかもしれません。
「こりゃ大変だ。」
私はジンチョウゲの枝に傘をさして、カオリ女王の巣が濡れないようにしてやりました。
観察をし始めたとき、自然界のことに手出しはしまいと思っていたのに、これです。
私はすっかり蜂のお母さんに魅せられてしまっていました。
ここまでが4月から6月初めまでの観察の様子です。
アシナガバチは確かに毒のある虫ですが、母蜂は温和で、私が観察のため数センチの距離まで顔を近づけても、手鏡を巣のぎりぎりまで近づけても毒針で襲ってくることも、噛み付いてくることもありませんでした。
しかし、働き蜂たちは母蜂と違い、少し攻撃的なところがあるようです。
もしも巣に近づく際は、働き蜂を刺激しないように十分に気をつけてください。
私も気をつけます。はい。
長くなってしまいましたので、続きはまた今度。別の記事につづりたいと思います。