ジンチョウゲの枝に巣を作り、最盛期を迎えようとしていたところをアリに襲われ、一家離散となってしまった、カオリ女王率いる働き蜂たち。
そして、カオリ女王の巣から羽化していたと思われる1匹のオス蜂(さまよえる王子)はどうなってしまったのでしょうか。
詳しい経緯は、アシナガバチ観察6月 さまよえる王子をご一読ください。
私は蜂に印をつけて観察しているわけではないので、ほとんど憶測でしかありませんが、あれから色々な場面に遭遇しました。
記事後半の、7月のアシナガバチたちの様子も合わせて、ご覧ください。
さまよい続ける王子の元に…
他のアシナガバチたちの巣が最盛期を迎え、蜂たちが忙しく巣を出入りする中、行くあてもなくさまよい続ける王子。
ジンチョウゲのあたりを飛んでみたり、他の女王の巣をうかがうようにフラフラと飛んでみたり…。
猛暑の中、どうすることもできずにさまよう王子の姿は見ているこちらまで辛くなりましたが、なんとかしてあげようにも、どうにもならないまま過ごすしかありませんでした。
アシナガバチのオス蜂は、たいていは巣の上で遊んでいるか、出かけても花蜜を吸うくらいで、メス蜂のように狩りはしません。
働き蜂にねだって、食べ物を分けてもらって生きるのです。
前回、そんな王子の世話をやきにきていた謎のメス蜂がいたことを目撃したことだけが、心の救いでした。
きっと、王子は見捨てられていないはず…。
時々庭の掃き出し窓のところにやってくる王子のために、私も何かしてあげたくなり、ハチミツ水を含ませた綿棒を、そっと王子の口元に差し出してみました。
すると、王子はお腹をすかせていたのか、綿棒にむしゃぶりついてきたのです。
両手でガシッと綿棒をつかみ、必死で蜜を舐めとっていました。
綿棒を通して手に伝わってくる振動が、生きようとしている彼の鼓動のように感じられました。
長い間、蜜を舐め続け、お腹が満たされるとまた窓枠の隅に隠れ、暑さをしのいでいるようでした。
そこへ、1匹のメス蜂がやってきたのです。
顔を近づけ、親しげにしている様子から、おそらくカオリ女王のところの働き蜂ではないかと思いました。
よかった。やっぱり見捨てられていなかったんだ…。
どこかで新しい巣を作っているんだろうか…?
それなら、王子を連れて行ってくれればいいのに…そう思いました。
でも、よほどジンチョウゲが気に入っているのか、この王子はその後も同じようにさまよい続けました。
時々、こうして訪れるメス蜂から世話を受けたり、私からハチミツ水をもらったりしながら…。
私は心配な息子を抱えている母親のような気分になりました。
「まったくもう。どうするんや、あの王子は…!」
そんなある日、はに子女王の巣を観察している時に、ジンチョウゲの中に1匹のアシナガバチが入っていくのが見えました。
あれ…?
見に行くと、な、な、なんと!!!
巣が!!
小さな新しい巣と、それを守る女王蜂。
そして、その横に、おうじーーー!!
こ、こ、これは!
一体、どういうことなのでしょう???
巣を確認すると、巣室は4部屋。
小さな白い卵がすでに産みつけられていました。
え?え?え?
ということは…。
王子の世話をしにきていたメス蜂は、働き蜂ではなく、カオリ女王だったってこと?
だけど、どうして今頃になって新しい巣を??
カオリ女王の巣がアリに襲われたのが、6月24日。
今日が7月20日。
この新しい巣は、まだ作られはじめてから2〜3日というところでしょうか。
20日以上もの間、どこで何をしていたのか…。
どこかで新しい巣を作っていたのだとしたら、なぜ今になってまたジンチョウゲの枝に戻ってきたのか。またアリに襲われでもしたのでしょうか?
しかも、今ここにいるのがカオリ女王だとしたら…。
彼女の命は、あと1ヶ月もないのでは…?
女王蜂は、夏の盛りの頃までには死んでしまうのです。
アシナガバチの生態
小さな巣に産みつけられた卵が、蜂の姿になるまでには、気温など条件にもよりますが、だいたい50日くらいはかかります。
そんな…。
不屈の精神で、もう一度一から巣を作り直している女王蜂。
おそらくは、1匹のさまよえる王子のために。
この小さな卵に宿った命が空を飛ぶ姿を、彼女は見ることなく死んでしまうのか…。
女王の死が早ければ、卵から孵化した幼虫たちの命もまた消えてしまうでしょう。
そして、王子も…。
『絶望』の二文字が、頭に浮かびました。
そんなことって…。
その不屈の精神とは裏腹に、見るからに弱ってきている女王蜂の様子に、私は悲しくなったのです。
ときにはお節介も役に立つ?!
そんな命の期限を知ってか知らずか、ぶらぶら王子とカオリ女王は、嘆き悲しむこともなく、ただ在るのみ…。
そう!生きているのです!
ああ、この2匹に希望はないのでしょうか。
せめて、働き蜂が1匹でも戻ってきてくれたら…。
そう思っていた矢先、ふらりと窓辺にやってきた1匹のメス蜂が。
以前、王子が謎のメス蜂と共に猛暑をしのいでいた窓枠のあたりにとまって休んでいます。
「もしかして、もしかすると、王子の世話をしに来ていた子かな?」
カオリ女王と働き蜂が入れ替わり立ち替わりで、王子の世話をしに来ていたということも考えられます。
「ものすご〜くポジティブに考えると、ひょっとして新しいカオリ女王の巣を探してるとか??」
「じゃないよね〜」
と思いつつ、ものは試しだと、私はとっさにそばにあった虫とり網を謎のメス蜂に近づけ、そっとメス蜂を網にのせると、カオリ女王の新しい巣のそばに連れていきました。
巣にはちょうど、カオリ女王がいました。
ボンクラ王子はどこかへ遊びに行っています。
もし、この蜂がカオリ女王の娘だとしたら、きっとわかるはず。
どうだろうか…?
網からジンチョウゲの枝に降りたメス蜂は、すぐにカオリ女王の巣に近づいていきます。
抱き合って再会を喜ぶのかと、期待に胸を膨らませたのも束の間。
取っ組み合いの大ゲンカ!!!
「あっかーーーーーん!!」
「ひけ!ひけーっ!」
網の棒でなんとか引き離し、謎のメス蜂は飛び去りました。
もう少しで、両者が大怪我をするところだった…。
はあ〜
こっちの寿命が縮むわ。
役に立たないお節介だったかなあ。
あのメス蜂はどこの働き蜂だったんだろう…。
人間が出しゃばっても、結局いいことなんてないのかな…。
膨らみかけた希望は、ぺしゃんとつぶれてしまいました。
次の日の朝。
カオリ女王のことが気になって仕方がない私は、目覚めると真っ先に彼女の様子を見にいきました。
そこで発見したのです。
小さな巣に、2匹のメス蜂がとまっているのを!!
二重に見えているんじゃないよね〜。
思わず目をこすりました。寝起きでしたし。
女王より少し大きめの体格。おそらくは昨日の、謎のメス蜂と思われます。
やっぱり親子だったんだーーー!
最初は驚いてケンカになったものの、2匹を引き合わせたことは無駄ではなかったのです。
神様、ありがとうございます…。
これで、もしカオリ女王の命が尽きてしまっても、この娘蜂が引き続き幼虫たちを育て、王子の面倒をみてくれるでしょう。
希望が出てきました。
お節介も、時には役に立つものです。
女王、少しでも長く生きて
不屈の精神で一からやり直す女王。
なんてすごいんだろうと感心させられます。
アリに襲われても、涙一つ見せず(蜂は泣きませんが)投げやりになることもなく。
己の命が尽きようとしているのに…。
愛情深く、勇敢な女王に、少しでも長生きしてもらいたいです。
時々ハチミツ水を与えるか、雨の日に傘をさしてあげるくらいしかできないけれど…。
最盛期を迎えている巣
庭組のはに子女王の巣、はに美女王の巣、テンちゃんたちの巣は働き蜂がどんどん増えて、賑やかさを増しています。
テンちゃんたちの巣(亡きラン女王の巣)
私が少しの間だけ世話をした幼虫たちも、立派な働き蜂になりました。
女王蜂の行方不明 どうなる?!残された幼虫たち
空を飛んでいって、上手に狩りをしてきます。
はに子女王の巣
どえらいことになっています。
どれがはに子女王なのか、さっぱりわかりません。
「よかったら、ハチミツ水でもいかがですか?」
試しに与えてみたら、群がってきて大変だということがわかりました。
もうやめておきます。
元気な働き蜂を甘やかしてはいけませんね。
はに美女王のところは高い位置にあるので撮影はしていませんが、現時点で最も大きな巣になっています。
こんなにたくさんの蜂に囲まれて暮らしているけれど、みんな平和です。
人も蜂も、猫も、みんな普通に庭に出て、普通に戻ってきます。
互いに、在ることを許しています。
なんだか、いつもの夏より楽しく過ごせている気がするのです。