車を運転していて、おもしろい看板を見つけました。
『曼珠沙華 散歩道→』
看板の矢印の指し示す方向に目をやると、黄金色の田んぼのあぜに赤いヒガンバナが連なって咲いているのが見えました。
田んぼの中の道って、大人になってからはなんだか入っちゃいけないような気がして遠慮していたのですが、こんな風に案内板が見えると、「え、入ってもいいの?」と、嬉しくなってしまいます。
「では遠慮なく、お邪魔しまーす!」
早速近くに車を停めて、散歩道を歩いてみることに…。
舗装された道の両端を、遠くの方までずっと赤いヒガンバナの帯が続いていました。
こんなにも長い距離を…。きっと農家の方が、植えられたんだろうな。
青い秋空と黄色い稲穂に真っ赤な花がよく映えます。
いくつもの名でよばれる赤い花
この真っ赤な花は、秋の彼岸の頃に突然咲くことから『ヒガンバナ』と呼ばれていますが、他にも様々なよび方をされる花です。
看板に書かれている曼珠沙華の他にも、
キツネノカンザシ、ハナビバナ、タンボバナ、ハッカケクサ、ホトケバナ、オバケバナ、ジゴクバナ、ドクバナ、カブレバナ、クスリグサ、オイモチ…などなど。全国各地で様々な名称があるようです。
良い意味合いのものもあれば、悪い意味合いのもの、オバケバナやジゴクバナといったおどろおどろしい印象のものもあります。
なぜ、こんなにいくつもの名称でよばれているのだろう…?
燃え上がるような赤い花が、昔から人々の関心をひきつけてきたからなのでしょうか?
調べていくうちに明らかになってきたのは、思いもよらないことでした。
毒であり、薬でもある球根
ヒガンバナは、秋になると球根から茎を伸ばし、葉も出さずにいきなり花を咲かせる、ちょっと変わった植物です。
秋になり、1日の最低気温が18℃〜20℃になると一斉に花が咲きます。
茎は、1日に10㎝〜15㎝も成長するほど勢いがあります。
この勢いを生み出しているのは、土の中の球根。
真っ赤な花が咲き終わった後に葉を出し、陽の光を浴びてつくられた養分は、球根にぐんぐん吸収されます。
球根は玉ねぎのような層になっていて、球根の中に新しい球根ができ、分裂して増えていきます。
夏になって葉が枯れるまで、球根に養分をため続け、秋になるとためた養分を使って一気に成長するのです。
球根には、リコリンやセキサニンなどのアルカロイドが含まれており、食べると体が痺れたり、呼吸に異常をきたしたりします。毒があるのです。
しかし毒であると同時に、薬としても使われていました。
すりおろした球根を腫れ物にはって炎症を抑えたり、煎じた汁は咳止めや食中毒にも効くとされていたのだそうです。
毒を以て毒を制するということなのでしょうか。
分量など間違えたら大変なことになりそうですが…。
これを利用した昔の人の知恵はすごいです。
毒と薬。相反する面を持つヒガンバナ。
数々の不可思議な名称の意味が、少しだけわかってきました。
しかし、ヒガンバナにはさらに驚くべき秘密が隠されていたのです。
飢餓から命を守る最終手段
毒であり、薬でもあったヒガンバナの、もう一つの驚くべき利用方法。
それは、非常時の食料でした。
昔は数十年おきに大きな飢饉が起こったということが、様々な歴史書の中に残されているのだそうで。
冷害や干ばつなどでお米がとれず、飢えで人々がバタバタと死んでいく中で、毒草の根まで食べて命をつないだという記録が多く残されており、これがどうやらヒガンバナの球根であったということなのです。
毒があるのに、食べられるの!?
そう思いましたが、もちろんそのまま食べるのではありません。
毒を抜くのです。
球根をすりおろして水にさらすと、毒は水に溶けて流れてしまうので、残ったでんぷん質をこねて団子にしたりして食べたのだそうです。
毒があることで山菜のようには気軽に食べられなかったことから、非常時に残っていたヒガンバナ。飢餓から命を守る最終手段として、その球根が食べられていたとは、驚きでした。
両極端な名称の意図
豊作と飢饉。
生と死にかかわった赤い花。
両極端な様々な名称は、最終手段としての非常食を守るための攪乱でもあったのかもしれません。
常日頃はけっして手を出さないようにと…。
黄金色に実った稲と真っ赤なヒガンバナが、秋空にどうしてこんなに美しく映えるのか…。
その景色に心が反応する不思議を感じていましたが、『命をつなぐもの』という意味で、ふたつは同じでした。
片方は豊作、片方は飢饉という対照的な場面において、でしたが。
豊作のありがたさを感じながら歩く、曼珠沙華の散歩道。
毎年見慣れた景色がこれまでとは違って見えてきた、秋のひとときでした。
さらに、うれしい発見が!
曼珠沙華の散歩道で見つけた、もう一つのうれしい発見!
それは、用水路の中をスイスイと泳ぐメダカの群れです。
まさか!と思い、目をこすりましたよ。
まるで旧友に出会ったかのような気持ちでした。
水槽に合成洗剤をたった一滴垂らすだけでも、5分で全滅してしまうメダカたち。
(参考 『合成洗剤 買わない主義 使わない宣言』:坂下 栄 著)
彼らにとって、厳しすぎる世界になってしまった現代なのに、自然界の中で生きていたなんて…。
他にもヌマエビやカメもいて、辺り一帯の自然が美しいことを物語っていました。
石けんと合成洗剤を比較!かいわれ大根の発芽実験
豊かな自然は、子どもたちへの最高の贈り物です。
メダカを捕まえた時に手のひらに感じる生命の感触は、ゲームのコントローラーからは決して感じることのできないものです。
センス・オブ・ワンダー 生涯消えることのない炎
こんなところで子どもたちと一緒に学習ができたら、心の優しさを育むとともに、自然環境や農業への関心を高め、生命という光を観る観光事業にもつなげていけるのではないかなあ…。
そんなことを考えながら、ひとりニヤニヤとするのでした。
田は宝 感謝とよろこびを広げよう
田んぼは環境浄化と町おこしの力を秘めている